コピーライターの書く小説は、どんなものになるのだろうか?
テーマは? 表現スタイルは? ターゲットは? マーケティングは?
「ガメラの南の島の夢」受賞記念Tシャツロゴマーク。 作中の「今日もケンコー、海がアオイ!」の フレーズをローマ字で表記。 |
当然ながら、別にコピーライターは小説を書く必要はない。
その能力も必要ないといえば、ない。
なぜならコピーライターはコピーライターであって、小説家や作家ではないからだ。
しかしながら、コピーライターという仕事はコトバ表現上、
さまざま文章表現スタイルと、無縁ではいられない。
コピーは文学そのものではないが、そのツボの如きものを体得している人と、
そうでないライターでは、発案、表現、展開、プレゼンテーションで確実に差が出る。
早い話、村上春樹の新作を広告するのに、
文学苦手、小説嫌い(マンガなら好き)、文字クワバラの人に仕事が来るだろうか。
確かに、近年のコピーライターに長い文章がニガテなので、
コピーライターを志望したというタイプがいる。
短いコトバなら何とかなるというわけだ。
しかしある商品の広告を発案し、その展開を考えるという作業は、
いってみれば、頭の中にあるモヤモヤしたテーマや登場人物や筋書きを、
とりあえず引き金となるコトバ、つまり小説のタイトル(コピー)にして顕在化し、
アレコレと具現化・物語化する工程とほとんど同じである。
これに商品の置かれた市場状況や時代環境、訴求対象、
競合他社の商品や性能価格比などのマーケティング要素が絡んでくる。
その上に立って、キャッチコピーやタイトル、訴求のシナリオを考え、
ビジュアル、デザイン、音楽、メディアミックスも動員して、売れるための物語を構築していく。
こうしたことを年柄年中、職業病のみたいに考えているコピーライターが、
もし小説を書くとしたらどんな小説になるのだろうか?
そんな好奇心や、藪から棒(冒)ケン心、沖縄という土地柄、マーケティング上の興味も手伝って、
書いたのが『南の島のガメラの夢』という児童文学だった。
以下、広告制作の企画書の体裁で、この小説という商品の制作過程をたどると…
◆企画意図
↓
私が東京から沖縄へ移住した1980年代後期。子供たちの深夜徘徊が社会問題化していて、
子供たちが学校や地元住民、教育委員会、PTA、そしてマスコミから
一方的に非難、攻撃されていた。、
まるでサウンドバッグのように打たれっ放しの彼らをなんとか
リングサイドのセコンドのように応援したかった。
◆市場背景
↓
子供たちを援護するといっても、当然ながら、深夜徘徊をもっとやれと応援するというのではなく、
そうなるにはそうなるなりの沖縄特有の社会環境や背景があるのだから、
その実態を知るため、学校の先生や近所の学童のいる親御さんを取材した。
その結果、犯罪まで起こすことは稀で、
時間を持て余した子供が面白半分に深夜徘徊しているケースが多いらしい。
なら、彼らの心の空白を埋めるための何かがあれば、物語になるのではないか、と考えた。
◆訴求テーマ
↓
その何か、物語全体を引っぱっていってくれる面白い話やテーマ、エピソードはないか。
これは、ふだんの広告制作の仕事でも、制作全体のミソとなる要の部分である。
これがあると、仕事のゴールが見え、モチベーションとなり、そこへ向う意欲が湧いてくる。
子供に受けそうなユニークな話はないかと、あれこれ思案し、探していた時、
以前聴いたことのある、沖縄在の知合いのカメラマンの実話を思い出した。
それも、沖縄という土地に因んだその話を……。
◆表現スタイル
↓
シンプルで、スピード感のある文体と、物語展開。
デビューして数年たった頃の村上龍作品のような疾走感を出せないか。
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などなど、後は以上のような次第で開発、新発売された『ガメラの南の島の夢』をお読みください。
幸い、この作品は、創刊95周年を記念して創設された「琉球新報児童文学賞」の
短編小説部門の第1回受賞作に選ばれました。(1989年)
◆短編児童小説『ガメラの南の島の夢』はこちら。
◆受賞作新聞掲載紙
◆受賞記念暑中見舞い
◆受賞報道
◆選考経過新聞報道
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